続きです。
☆ストレスを振り切るために承認を求める…承認を求めるあまりストレスを抱える…
生物にとって、適度なストレスは不可欠です。食べ物を見つけて食べて身を護るという行動は、空腹や危機感という本能的なストレスのおかげで行えるものです。
危険で空腹という極端な環境は、生物にとって快適ではないです。だからこそ、安全と満足を渇望します。それは生きる力を鍛えるモチベーションになりうるということです。
逆に、いつもお腹が満たされて安全という環境では、インテリジェンスの高い個体においては生存欲求以外の欲求が特に肥大化する傾向が見られます。
承認欲求、知識欲求、破壊欲求、私の造語ですが整合性追求欲求などがあります。
今回は承認欲求に絞ってお話します。
安全で豊かな暮らしが供給され、生存本能が満たされると、生存欲求がなりを潜め、脳幹や視床下部などがたるんできます。
代わりに大脳が持つ記憶や思考力に励まされ、承認欲求が盛んになります。
反応としては健全です。
承認は、様々な様相を呈しています。愛、褒め、イイネはすぐに思いつくでしょう。
成績、握手、ハグ、賃金、資格、あるいは注目、一緒に過ごす、返事をする、求めに応じる、なども承認の一態です。
近代的コミュニティの心理面において、これらの承認は、原始人にとっての食べ物のような性質があります。
多くの人が求めていて、奪い合いが起きます。奪い合いは危険ですから、いろんな工夫をして、流通量や価値を増やして補い合いながら、盛んに価値交換を行っています(例、相互承認供給システムに無意識に加入して、良いとも思わないものをせっせと褒め合う、年功序列制度等)。
しかし、おばちゃんのところによく寄せられているご相談は、承認をいくら供給しても満足してくれない、というものがとても多いです。深刻な欲求不満になると、重篤な離脱症状が出ます。
満腹中枢が壊れている、なんて話を聞いたことがあるでしょうか。それに少し似ているかもしれません。
満たされたら切り替えて別のことに注目する、このことに気付けません。それだけではなく
「もっと!もっと!」
と元よりも欲求が増して、収まらないという現象が起きます。
満たされて当然の承認を得ているのに、物足りず、さらなる承認を求めると、どうなるでしょうか。
先程も申し上げたように、承認は心理における食べ物みたいなものです。少なすぎてもひもじいし、多すぎても具合が悪くなり、長期的にも問題です。
「足るを知る」必要があります。さもないと、承認を得続けなければ、という大きなストレスを抱え続けることになります。
満たせば満たすほど承認欲求が肥大する個体の脳は、刺激的な表現になりますが、それはまるで麻薬依存の患者さんのようだとさえ言われています。
それほどまでではなくても、承認欲求が肥大する現象は、多くの現代人に見られます。
承認欲求自体が悪いわけではありません。適正利用により、優しさや向上心や専門知識などのステータスに振り分けを行うこともできるのです。
しかし、承認欲求が承認欲求不満をもたらすフィードバックが起きると、心身に深刻な悪影響を及ぼします。*1
☆承認欲求プール巨大化が招く不幸
承認プールがありまして…
承認されればされるほど巨大化する仕組みで…
そこに、穴の空いたおたまで…
他者承認と、比較による自己承認を。
供給し続ける、そんな人生…
しかも…
同級生ひとりひとりが、承認プールを持ち…
比較上位は常に承認を得て…
他者承認を奪い合って…
プールを満たし続けなければならない…
まるで、ビバリーヒルズに住んでプールの素敵さで勝ち続けようとするのと同じぐらいの無謀さですよ(例えが変で済みません)。
とにかく、マジでヤバいことです。
優劣の比較に基づく承認や、他者排除による承認は、脳を興奮させますが、劇薬とも言えます。
☆無間地獄
こんな無謀なこと、誰がするかって?
給料等で定期的な他者承認を得ることのできる大人は忘れがちですが、実は多くの若者が、日々やっていることです。
承認欲求という魔物の正体を知らずにいる若者たちのストレス、いかに大きいか、想像できますでしょうか。
一般的な機能を持つ家庭において、多くの子は、中学生前後の思春期に、他者承認の供給が途絶える時期を迎えます。
大きすぎる承認プール、少なすぎる承認。
プールはあるのに、水が満たせず苔だらけ…の残念なプール。
ひとたび気付けば、この状況に耐えられなくなります。
そこで、どうするか。
一部は、思考停止します。多くは、改善への道を模索します。
人によって、改善策は様々です。
(パートナーを見つけて互いにロスなく他者承認を供給し合うようになるのは、他者承認欲求充足行動における最適解のひとつです。ただしこれもパートナーとのマッチングやその後にも、承認欲求が悪さをして、しばしば不具合が起こります)。
☆身の丈の目測
他者承認を奪い合い、承認プールサイズを競い合う現状の無謀さにやがて気付き、承認を求めることに疲れ飽きて諦める人が出てきます。
相変わらず一部は、思考停止。
どちらにしても、人生に絶望するのが嫌ならば、大仕事が必要です。
一定の知見をもとに、一時的な痛みを受け入れながら、承認欲求のプールの仕組みを改築しましょう。
改築は簡単ではなく、コストも伴うでしょう。皆が皆、今すぐできるというものでもありません。でもうまくいけば儲けもの。
実際は複雑な心理介入ですが、ちょっとだけ触れておきます。
まず第一に、承認を受け止めるプールがどのようなものか俯瞰してみましょう。
自分では自分の承認プールがどんなかんじか気付きにくいです。できれば、カウンセラーに手伝ってもらうとよいです。*2
そうして初めて、
「大きすぎる。自分にはメンテナンスしきれない。」
「ちょっと大きめのお風呂サイズで十分だ」
「小さなお風呂サイズが、ちょうどいいや」
等、身の丈に合ったプールサイズがわかるようになります。
ひとりで比較承認にこだわっていたときには見えにくい、自分は恵まれているんだな、ということを気付かせるのです。
それが難しいんです、って?そうですね、育児の専門家も、親御さんも、大抵逆のことをなさっているように見えます。
第二に、プールへの給水システムを変更します。
引き続きわかりにくくてごめんなさい。比較承認、他者承認の切り離しをし、承認の供給経路を複数ルートとります。
サードプレイスを!とか、依存先を複数!、と聞いたことがありますか?これら所属欲求とも関係します。所属欲求と承認欲求は、重なる部分も多いのです。
いずれかの承認供給源が絶たれたときに備え、リスクヘッジするのです。居場所が複数必要な理由は、記事にしてあります。
https://www.asdadhd.jp/entry/2018/09/02/%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%83%A9%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%84%E5%B1%85%E5%A0%B4%E6%89%80%E3%82%92%E9%81%B8%E3%81%BC%E3%81%86%EF%BC%81_1www.asdadhd.jp
https://www.asdadhd.jp/entry/2018/08/31/%E5%B1%85%E5%A0%B4%E6%89%80%EF%BC%81%E5%B1%85%E5%A0%B4%E6%89%80%EF%BC%81%E2%80%A6%E5%B1%85%E5%A0%B4%E6%89%80%EF%BC%9Fwww.asdadhd.jp
1 自前
2 割り切った相互承認システム
3 わりと居心地がよく大切にしたい人間関係
主にこの3つで、承認(自己効力感)を供給してます。
※具体的な承認供給方法としては、推し活(人気者のファンとしての活動や子育て、ペット飼育含む)なども含まれます。
詳細は割愛しますが、進化心理学的なガイドがあれば、承認欲求がなぜ肥大化したのか、承認欲求が悪さをしている仕組みと共に理解できます。すると、不思議なことに、システム変更もできるようになるのです。
「比較上位は承認欲求充足度高いけど、鎬(しのぎ)の削り合いは消耗するなぁ。」
「短期的には比較上位でやっていけるけど、長期的には無理だな」
このように承認欲求の肥大化リスクを知れば、
「まあいいや。別に、そんなに承認なくても。」
というように、肥大する欲求と大きくなる衝動性に、無理なくリミットをかけられるようになる日が近いです。
プールを小さくし、比較承認や他者承認を切り離し、自前の井戸からチョロチョロ湧いてくる自己承認(比較や、奪い合いに依らない満足感、幸福感。素朴な達成感等)を供給できるような仕組みを取り入れれば、人生の安全度と満足度がぐっと上がります。
お子さんは、身の丈の目測、自分でできますか?
理論上はわかっても、腹落ちするのはかなり後。やり方を知らなければ、人生通しての大目標になるかなと思います。
だからこそ、難しそうだと思っても取り組む価値があります。できれば親子で同時に済ませてほしい…とおばちゃんは思ってます。
☆承認欲求、弱肉強食
典型発達寄りの子は、群れを作る力や、群れて身を護るといった、原始的な生存本能が強いです。
生存テクニックを優先的に身につけます。
本能的に同調、共感を行い、相互に承認を与え合います。そうすることで自分に返ってくる承認の価値を上げ、
最低限の自己肯定感(正確には自己有用感とか自己効能感とか。自分はできるから大丈夫!の感覚)を失わないよう、セーフティネットを張ります。
発達障害サイドから見ますと、株を買い支え合ってバブルを維持しながら、バブル弾けても安全でいられるよう模索するみたいなかんじで、ちょっと気持ち悪いんですが、でもほんと良くできた生存システムなので。使ってみてほしい。
典型発達と呼ばれる子達は、いざというときは、共通の敵をさらし上げたり、少数派や弱者の権利を侵害したりしてでも
生存欲求を発動させて、生き残ります。
たとえ身の丈に合わない夢を抱いてしまったとしても、他者の人権を踏みにじることで、ごく一時的に自己効力感を得て、一時的に自己効力感を補填し、夢の下方修正を行うので、自己効力感が無になることはなく、命と心は守られます。
このように典型発達寄りであれば、人生の途中で絶望し「死にたい、死んだ方がまし」な気持ちになっても、適宜味方を見つけて相互承認供給システムに参加し、システムに守られることで精神的余力やコミュニケーションの実験設備を確保しつつ、自己弁護や悪口でまとまる技術を身につけたり、他者を蔑んで自己を相対的に上に据えたりしながら、なんだかんだ社会生活を送れることがほとんどです。
(と言いますか、このようなファジーなサバイバルスキルを自然に身に付けられる子を、私は定型寄りと称しています)
☆スタンダードで大丈夫?
あなたのお子さんはどうでしょうか?あるいは、あなたは?
もし、自力で模索できそうもないならば、現在の子育ての主流である
「子どもの自主性を信じてひたすら待つ」
「操作、誘導、介入をしない」
「得意を伸ばす」
「ほめてほめて伸ばして伸びたい方向に育てる」
という方法を真に受けないほうがよいかもしれません。
これらの方法は大衆には人気です。しかし内外に力を持っている子に適用すると、バランスが崩れ極端になります。
バランス能力や集団に添う特性のある定型発達者や、ごく一部の社会的成功者は生まれますが、どうやら都市部のハイソサエティ家庭でこれをすると、簡単に世界最高レベルの環境を与えることになってしまい、モチベーションがなくなったり、幸福度が低くなったりするようです。
人気の子育て術はたくさんあり、どれも魅力的に映ります。しかし、あまりにも発達障害児の予後が悪いのです。
万能な子育て法はなく、弊害は明らかにあります。弊害をうまく使う、ゆる支援、取り入れてほしいなと思います。
続きます
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ほめの弊害はあちこちで書いています
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*1:また、人に優しくしたい等、良くありたいという気持ちに承認欲求が混ざっていることを自覚できないと、無限に良くあろうとしてしまいます。これは疲れますし、場合によっては搾取されるでしょう。多少の搾取は許容するにしても、優しさが枯れ果てる前に、切り捨てましょう。そうでもしないと相手は人間関係を学べません。冷たくすることは、返って優しいとも言えます。ただ、逆恨みされるのはお互いの幸福度を下げる大損ですから、冷たくするにしても逆恨みはなるべく避けて、つけこまれない程度の心理的距離をおく所作の練習をしておきましょう
*2:その人によりますが、例えば、ブーメラン(他者へ向けた指摘が実は自分に必要な指摘であったと認識すること)を自覚できる方ならば、第三者の承認プールを評価して頂くこともあります。こいつめっちゃしありがたみわかってねーな、あれ、私もじゃん…やば!みたいなかんじで。
*3:ゆる支援とは、大雑把に言えば、受け取り方を身に付けさせる支援です。 発達障害児全てに有効なわけではなく、むしろ発達障害という少数派の中でもなんか違うなぁという感じのお子さんに向いてます。 論理的思考、百ゼロ思考、ネガティブ思考の子の脳は、理不尽なことの処理に疲れています。 「こう考えたら筋が通る、ラクになる」 と気付かせ、その考え方にハマらせます (メンターなしですと、陰謀論者になります)。 同時に、理不尽だと思うことにも、当事者以外には理解し得ない何らかの事情があるようだ、と体感させます。ここが腕の見せ所です。 理不尽だと思うのは、一方から見ているからで、他方からすれば何らかの事情がある、というのを発達障害傾向のある子にわかってもらうのは、ヤンキーに数学教えるぐらいの難しさです。 でも、取り組む価値はあります。心を守る効果があまりにも高いからです。 ゲームのパワーゲージや音量ボリュームつまみなどをイメージして出力や受け取り方を調節する感覚というのは、押し付けられて納得できるものでもないです。でも、そのお子さんにとって適した時期に、好きなものと絡ませると、掴んでいただくことができます。 脳の負荷が下がる考え方は、一生物の命綱となるでしょう。 また、幸福感受性を上げる考え方にドハマリし、日常からささやかな幸せをたくさん手に入れることができるようになります。ご相談ください。